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「信」無くば立たず(フランシス・フクヤマ著)読書メモ
Thu May 20 09:40:00 JST 2010
「信」無くば立たず(フランシス・フクヤマ著)は1996年4月10日第1刷発行といささか古い本です。しかしながら、昨今話題のウッフィーにも重なる「信」をテーマとするこの著作、厚さに躊躇しつつも読んでみました。本書は20世紀が終わりを迎えようとする頃の各国の経済的発展を俯瞰し、大規模な企業が発達する米国、日本、ドイツと小規模な企業が多いイタリア、フランス、中国を「信頼」をキーワードにして比較分析している。次に、前述した国について組織や社会の現状とその歴史的背景について簡単に纏めます。
中国では、企業は家族経営で営まれ米国や日本のように血縁関係のない専門経営者が経営を引き継ぐことはなく、経営者の一族と使用人ははっきりと区別されている。また、その理由としては父子の関係を軸とした家族を最優先する儒教と、支配者が変われど農民は徴税、軍役、労役等搾取されるばかりであったので、敵対的な環境への防御として見ることができる。また、常にぎりぎりの生活であった為、友人や隣人に寛大であるゆとりもなかった。
イタリアでは中国儒教社会とラテン系カトリックの類似性が指摘されている。それは、基本的には家族主義的であるという点だ。但しそれは地域によって異なった様相を見せる。北部は中間的社会組織や市民コミュニティに恵まれいわゆる大企業が発達している。対して南部は市民コミュニティが断絶しているだけではなく、家族の絆も弱く貧しいが定説だ。そしてこの15年(書かれた当時から)ハイテクやアパレルなどを中心とした家族的な小規模企業が勃興しこれを第三のイタリアとしている。地域的にも北部と南部の中間に位置し、大家族的な絆と市民コミュニティが両立しているのが特徴だ。その背景は北部でのベニス、ジェノバ、フィレンツェに見られる都市国家と市民参加意識の伝統、一方、南部ではノルマン公領の絶対君主制が南部の都市国家の芽を摘み、貴族である地主が農民を押さえつけた。このような中央集権的圧政が北部や中部とは異なったイタリアを作ったと言える。
フランスは4世紀かけて培われてきた頑固な中央集権国家であり、ルノー、ユジノール、ペネシー、エルフ、クレディリヨネ等(現在は合併などで名前が無くなっているのもあります。)大企業は政府による保護で成長している。一方で、高級品などを扱う比較的小規模な家族企業が成功している。経営者と労働者には隔たりがあり、労働者間にも協力関係が無く国家と家族の中間に当たる市民コミュニティは発達していない。但し、国境なき医師団(フランスが発祥)に見られるように、団体活動も活発になりつつある。
ドイツの経済は米国のような自由主義的な考えに基づくものではなく、社会民主主義的な福祉国家であり、その労働市場も硬直性がある。にもかかわらず欧州No1の経済大国であることが大きな特徴だ。銀行を中心とした産業集団、良好な労使関係、徒弟制度、伝統的な共同体意識(排他的なところもあったがその改善はドイツの方が進んでいる)等日本とよく似た構造により大きなグループの形成から末端の職場の円滑なコミュニケーションまで連帯感が貫かれている。
米国、それは、有数の大企業を抱え世界一の経済大国だ。この国は個人主義として捉えがちであるが、実はかなりの団体好きである。米国民は自分たちで作り上げた政府であるにもかかわらず、そこに国家統制されるのを嫌う。国家権力と個人の権利のバランスを取ろうするかのように、家族や協会、地域社会、職場といった社会集団には進んで従うのだ。これにはプロテスタンティズムの影響も大きいとしている。しかしながら、個人主義がコミュニティを犠牲にしながら台頭してきている。その原因は資本主義、権利意識、電子技術等としている。この件は、「孤独なボウリング」(ローバー・D・パットナム著)に詳しい。(これも読んだので、別途書く予定)
日本、我が国はこの時点では世界第二位の経済大国である。その源は戦前の財閥を引き継ぐ異業種間の系列とトヨタ自動車などの下請け、販売子会社等の縦型の系列、そして経営の慈愛と労働者の忠誠心とし、系列の結束や忠誠心は縁があってそこに所属したなら永続的に忠誠を誓う大名とサムライあるいは家元制度のような相互義務としている。但し集団の外に対しては排他的であるともしている。
大規模な企業が発達するとしている国の特徴は、家族・血縁以外での国家が関与しない中間的社会組織・団体が発達している事、ここで上意下達だけでは無いコミュニケーションが発生し、人と人あるいは組織と組織の連帯感そして信頼関係に発展し、特定の目的をもった大きな組織体が形成される。一方、中央集権が強く統制が厳しいと中間的な組織が生まれにくく家族・血縁以外のコミュニケーションが貧弱となり連帯感や信頼関係が熟成できず、家族・血縁での小さな組織がその枠を越えて、大きく発展することが難しい。言い換えると、幅広い人間関係のなかでウッフィーを相互にやりとりすることが可能な社会と、そのようなウッフィーのやりとりが家族・血縁等で閉ざされている社会とも言えます。
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